武田良介議員は国内の象牙取引の現状を質問しました。
トラ・ゾウ保護基金の坂元雅行事務局長は、2004年まで世界最大の象牙消費国だった日本は特別な道義的責任を負っているにもかかわらず、改定案には国内象牙市場閉鎖に向けた規制強化が含まれず、逆に市場を維持するものになっていると指摘しました。
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議事録
○武田良介君 日本共産党の武田良介です。今日は、三人の参考人の先生方、大変お忙しい中、ありがとうございました。
坂元参考人にお伺いしたいと思います。
ワシントン条約に関わってお聞きしたいと思います。閉鎖決議ということもありました。先ほどもちょっとお話がありましたが、日本の市場がこのワシントン条約の言う閉鎖の対象になるのかどうか、それを考えるときにどういう点を押さえる必要があるのか、御意見を伺えればというふうに思います。
○参考人(坂元雅行君) ありがとうございます。
まず、前提として、先ほども申し上げましたが、環境大臣が四月十一日の衆議院本会議で、これまで我が国では、象牙の大規模な違法輸入は報告されておらず、条約の下での報告においても、我が国の市場は密猟や違法取引に関与していないと評価されていると答弁されて、そして、日本の象牙市場は閉鎖決議の対象外との認識を示されました。
問題は、日本は密猟や違法取引に関与していないからという、その理由です。
私のカラー資料の六ページを御覧いただきたいのですが、この一番上の第三段落、この文言を御覧いただきますと、密猟又は違法取引の一因となるというふうにされています。つまり、象牙の違法取引の一因となっているだけでその市場は閉鎖対象になるという意味です。
そこで、現実を見ますと、日本では、二〇一一年以来、警察による無登録象牙の違法取引の立件が後を絶ちません。このカラー資料の八ページを御覧ください。種の保存法違反事件全体の伸び、これが青い方ですね、これと比べても、それ以上に象牙関係の種の保存法違反事件、赤色です、これが伸びております。その多くは、近年、日本の象牙市場を活性化しているインターネット取引によるものです。この新しい取引プラットホームを使った象牙の違法取引が日本市場で活発化しているわけです。
また、近年、日本から中国への象牙の密輸出が何件も中国の税関、警察に摘発されています。二年間にわたって三トン以上の象牙を日本から中国へ密輸し、中国の裁判所で中国人夫婦が懲役十五年の刑を宣告されたという例もありました。
こうした事実があるにもかかわらず、なぜ日本の市場が違法取引に関係していないと言い切れるのか、私は理解に苦しむところであります。
○武田良介君 ありがとうございました。
もう一点、坂元参考人にお伺いしたいと思うんですが、先ほども、国内取引の規制強化ということもありまして、意見陳述の最後に四点挙げられている点もありましたけれども、どう変えるのか、もう少し具体的にということですが、現行法でどうなり、どう変えていくのかという点についてお伺いできればと思います。
○参考人(坂元雅行君) ありがとうございます。
では、先ほどの資料の七ページ、これを御覧いただきながらお聞きいただければと思います。
まず、第一の点についてですが、現行法上は、全形が保持された牙、一本物の牙ですね、これが規制対象とされております。したがいまして、例えば、この全形牙が二つに分割されると立ち所に規制の対象外になってしまいます。また、牙を分割加工して作った製品は、当然ながら全て規制の対象外です。これらの様々な形態の象牙の一切を規制の対象に含めるというのが取引規制の第一歩となります。
次に、第二の点についてでありますが、現行法上は、先ほど申し上げたとおり、そもそも規制対象が全形牙だけですので、これが登録の許される象牙ということになっております。しかし、先ほど申し上げたように、一切の象牙を取引規制の対象とした場合には、必ずしもその全てに例外的な取引の機会を与える必要はありませんし、そのようなことをしてしまいますと、市場閉鎖決議が狭い範囲での例外しか認めていないことと矛盾いたします。そこで、登録を条件に取引を許す象牙を絞り込む必要があります。
次に、第三の点ですが、現行法上、象牙の場合に当てはまる可能性がある登録要件というのは、ワシントン条約による輸入禁止前、つまり一九九〇年以前に日本に輸入したか又はそれ以前に日本国内で取得したものという要件になります。つまり、今から二十七年以上前に取得されたということです。しかし、私が提案しておりますように、登録対象が例外的に取引を許す象牙だけということになりますと、登録要件もそれらの象牙のタイプに応じて細かく定める必要があります。例えば、アンティークを例外的に取引を許すのであれば、登録要件は例えば製作後百年以上を経たものなどということになるわけです。
最後に、第四の点ですけれども、現行法上、登録を行う機関は真贋鑑定を行う権限はありません。個体識別とマーキングについては、今回の改正法案において不十分ながら一定の仕組みが設けられておりますが、これは生きた動物への適用しか想定されておりません。
また、現行法上の登録要件の審査、つまり一九九〇年以前に取得したという要件の審査は非常に問題です。規制適用前の取得であることの申請者以外の第三者の証明、つまり知人や家族の一筆を受理して、それで登録を認めてきたわけであります。これではいわゆるでっち上げが簡単にできてしまいます。
二〇一五年には、二千百本以上の全形牙が一九九〇年以前に取得したものだとして新たに登録されておりますが、このように大量な象牙が登録される背景にあるのがこの登録審査の緩さだと考えております。先ほど述べましたアンティークなどの象牙のタイプに応じて新たに定められた登録要件の審査は、客観的かつ公的な証明に基づいて厳正に行われる必要があると考えております。
以上です。
○武田良介君 坂元参考人に最後に一問お聞きしたいんですが、今度の改正で象牙を取り扱う事業者に対して登録制にするということがありますが、これによって、先ほどお話があった密猟象牙だとか出所不明の象牙だとかがどれだけ市場から排除することができるのか、どの程度の効果が見込めるのか、御意見伺えればというふうに思います。
○参考人(坂元雅行君) ありがとうございます。
改正法案による業者に対する監督強化の最も大きなポイントは三つになります。
第一に、届出制に代わる事業登録制の適用によって、事業登録時と登録の更新時に登録拒否事由の確認が行われることです。これは、適正な管理を実行できる業者の選別を狙ったものだと思います。
第二は、現行法上、任意の制度とされている管理票作成を義務化したことです。私のカラー資料の十ページを御覧ください。この絵が描いてあるページですね。
登録業者が適法に取得した象牙を分割して新たな分割牙を得た場合は、その入手経緯を記載した管理票を作成することを義務付けられます。さらに、その分割牙を譲渡する際は管理票とともにすること、手元には管理票の写しを保存することを義務付けております。つまり、登録業者に分割と取引の経過を記録、保存させるわけです。この管理票の仕組みは、全形牙のように一本一本規制されていない分割牙についても一定のトレーサビリティーを確保することを狙ったものだと思われます。
第三に、登録事業者に対する厳しい行政処分の権限を定めました。これまでの届出事業者に対する指示は措置命令に格上げされ、業務停止命令も期限の上限が三か月から六か月に延びました。処分事由も拡大されています。さらには、事業の禁止をもたらす登録取消しも導入されました。
では、これらの措置により、象牙業者の日々の業務の中で密輸象牙や出所不明の象牙が排除されていくことが本当に期待できるのかということであります。私は、残念ながら実際には厳しいと考えております。
カラー資料の九ページを御覧いただきます。先ほど申し上げた第一の事業登録時及び更新時に登録拒否事由が確認されるという点についてであります。
改正法案の附則によりますと、新法施行の際、既に旧法に基づいて届出をしている業者は施行日に事業登録を受けたものとみなされ、登録事業者に自動移行することとされています。登録拒否事由を初めてチェックされるのは最初の登録更新時、早い事業者で改正法施行日から一年六か月後、その他の業者については施行日から三年後となります。
調査室資料の九十六ページ、資料十六によりますと、現在届出を行っている業者は約一万四千以上ということですけれども、その大部分の業者がチェックされるのは、今からカウントすれば約四年後ということになります。これでは、適正業者の選別は随分先のこととなります。登録拒否事由のチェックがこれだけ先になってしまいますと、当然駆け込み届出が増えます。先ほどの資料十六によれば、二〇一六年の届出数が二〇一五年から倍増して千件以上の届出となっておりますが、この中には一部駆け込みが含まれると想定されます。今から施行日までの一年の間に、更に駆け込み届出は増えるのではないかと考えております。
再びカラー資料の十ページを御覧ください。管理票作成の義務付けについてですね。
まず、そもそも個々の分割牙のトレーサビリティーを確保するためには、それぞれの分割牙を何らかの方法で識別できなければなりません。しかし、そのための措置が改正法には盛り込まれておりません。その結果、同じような部位から切り出した同じ重さの分割牙同士は管理票の記載からは区別不可能です。したがって、管理票の付け替えをしてもまず露見することはありません。赤枠内に①と記載した問題点です。
また、分割牙を譲渡する際は管理票とともにすることを義務付けておりますが、全ての分割牙についてではありません。改正法施行時に既に分割されていた牙は、分割時に管理票が作成されておりません。現行法上は任意の制度だからです。しかも、この扱いには期限はありません。このように、管理票が添付されていない分割牙を合法的に流通させるということになりますと、そこに違法な分割牙を紛れ込ませる大きな法の抜け穴をつくることになります。その点がこの②に示した問題点です。
さらに、この分割牙のトレーサビリティーの確保、監視、これを考えましたときにはタイムリーな追跡情報の把握と分析が不可欠です。しかし、管理票の作成、移動、保存は全て登録業者の手元でなされますので、その実態は主務官庁には可視化されません。赤枠内の③と記載した問題点です。それにもかかわらず、改正案には、管理票の写しを譲渡しごとに提出させたり、短期のスパンでまとめて定期報告させる仕組みの定めはありません。
最後に、第三の行政処分の強化についてです。
確かに、かなり厳しい行政処分のメニューとなっております。しかし、主務官庁が登録業者に対してこれだけの厳しい行政処分を実際に行うかどうかについては、相当不安を持っております。
資料の十一ページを御覧ください。現行法上の拘束力が弱い指示ですら、一九九五年の制度施行から二十一年以上の間、実績がありませんでした。二〇一六年九月と二〇一七年、今年の三月の二件だけであります。業務停止命令の実績に至っては一件もございません。従来よりはるかに厳しい行政処分が実際に執行されるかどうかについては、大きな注意を持って見ていく必要があると思っております。
ありがとうございました。
○武田良介君 ありがとうございました。
矢後参考人と辻村参考人にもお聞きしたいことがあったんですけれども、時間ですので終わりたいと思います。
ありがとうございました。